Vol.49 頭と身体は切り離して考えられない①

 

昨日たまたま、息子がまだ小さい頃に住んでいた家の前を通る機会がありました。家の近くには公園とテニスコートがあり、当時その公園に行っては親子三人、そして飼っていた犬と一緒にボール遊びをしたり、駆けっこをしたり、毎日のように運動していたことを、ノスタルジックに思い出しました。

学力テストは全米でトップ0.1%というタイトルを見たら、多くの方はきっと、一体どんな勉強をさせていたかと思われるかもしれません。しかし、私たちが力を入れていたことは、

読み聞かせ、親子の対話、手を使った作業、料理や掃除など家の仕事、体を使って外で友達と遊ばせること、博物館や美術館など文化に触れさせること。また呼吸法・瞑想、そして運動で脳と体を鍛えることなど、勉強ではないことばかりでした。例えば2歳くらいから小学校低学年くらいまでは、ほぼ毎日公園など外で遊ばせる時間を必ず持つなど、外でのアクティビティーと、家の中ではお手伝いや、工作などの手作業、そして読み聞かせだけでも既に忙しく、テレビやゲームをする時間がなかっただけでなく、勉強する時間もほとんどありませんでした。

「勉強しなさい」と言って学習させていた記憶はなく、「スイミングの練習に遅れるから、宿題は車の中でさっと終わらせて!」というように、運動をさせたり、子ども同士で遊ばせる段取りなど、勉強ではないことに忙しくバタバタしていた記憶があります。私の中では(体を使わずに勉強ばかりしてたらバカになる)と、強迫観念とまではいきませんが、手足を使わせるアクティビティーや運動は、机に向かう勉強よりも、欠かせないことと考えていました。正確には(考えていた)というよりは、そう(感じていた)のだと思います。遡ると、それは息子が生まれてからすぐに始まっていました。

ただ、英語を学ばせるには、まずは母国語での思考力を養う方が効果的だと言っても、なかなか理解し受け入れてもらえないのと同様に、子どもに勉強させなければいけないと思っているお母さんに、いくら「それよりもまずは体を使わせた方が、よっぽど賢くなる」と説明しても、耳を傾けてもらえないかもしれません。と言っても、もちろん体を動かすにも、ただ遊ばせておけばいいということではありません。

※「前頭葉、運動」で検索し調べてください。

参考図書:「脳を鍛えるには運動しかない」

しかし、息子が赤ん坊の頃からしていた、具体的な何らかのやり方を人様に伝えても、人の役には立たないと思っています。私がその場その場でほぼ即興で、本能的に感じてやっていた、体の使い方や体のケアの仕方、または体と脳の発達にとってよいと思われる方法を、マニュアルやノウハウのようにお伝えすることには、どうも意味があることとは思えないのです。なぜなら、体にとって何がいいか悪いか、何をするべきかしないべきか、何を食べるべきか食べないべきか、どんな運動をするべきか否かは、個々によって違いがあるだけでなく、同じ人であっても、時期によって違いがあると考えるからです。

例えば同じ人でも、体内の腸内細菌は食べ物を変えるだけで、3日~4日で既に変化するそうです。免疫細胞の7割は腸内にあるため、腸内細菌が変われば免疫力も変化するそうです。または、断食は腸内でビタミンをタンパク質に変換させる、腸内細菌の多い人にとっては(信じがたい・・)、体に悪影響はないかもしれませんが、そうした腸内細菌の少ない人が、長期的に断食をしたら危険を伴うことにもなり兼ねません。そのように、もしとても素晴らしいと思える方法であっても、年齢や環境や体質や性格など、多くのファクターがあるため、全ての人に適した、完全なる一つの正しい方法はないでしょう。

多くの人は、(今ここで、何をしたらいいのか知りたい)と、具体的で簡潔な方法だけを知れば十分と思われるかもしれません。それは人の常だと考えます。しかし体のことにおいても多くのこと同様に、他者の受け売りではなく、お母さんが「感じる」ことで、自分の子どものその時その時に合った、最適な方法を見出すことができるでしょう。即席な情報のみを模索する代わりに、自分の子どもに合った体のケアを考案できたり、または体に良いアクティビティーのアイデアが、自然に湧き出てくる感覚が得られれば、特定の方法や情報や知恵や人に頼る必要はありません。そうした“感じ“をまるで身にまとっているように、私は是非、あなた自身のものとして、あなたの手中に収めていただきたいのです。子どもの頃(胎児期を含む)の栄養が将来、大人になった時の疾病に影響するという研究は多くあります(※例:オランダの冬の飢餓事件)。あなたの感性が子どもの血と肉、知(智)と体となり、あなたの子どもの生涯にとって、大きな贈り物となります。私はこの章でも、釣った魚をお渡しするのではなく、自ら適切な方法を発見したり調整できるために、できるだけ魚の釣り方をお伝えする努力をさせていただきたいと思っています。

さて数日前、息子の小学校の時の担任だったトレーシーと、彼女の息子で、10歳になるナサニエルが家に遊びに来ました。ナサニエルは赤ちゃんの時に、しばらく我が家で面倒を見てあげた子です。だからか親戚の子のような感覚があります。見ると彼は、鼻が詰まっていて口呼吸をしていました。木に囲まれた我が家のような田舎では特に、花粉症のような症状がでてしまうそうです。ただ、夜はいつも鼻が詰まってしまうので、寝られなくなるのを防ぐため、枕を高くしているらしく、アレルギー症状は常にあるのでしょう。日本でもアレルギーを持っている子はたくさんいますよね。もうそれは当たり前になりすぎていて、もしかしたら、かなり重度の喘息や鼻づまり、またはアトピーでなければ、大概は「大きくなれば治るだろう」と考えている方が、多いのではないかと想像します。

私はトレーシーに言いました。「砂糖をやめて、たくさん脚を使わせて、歩いたり走ったりするエクササイズを毎日できる?」と。するとそれを聞いていたナサニエルは「砂糖を止めるなんて無理-っ!」と、断固反対してました。彼だけでなく、特にアメリカの多くの子どもたちは、砂糖の摂取がかなり多いと思います。小学校の先生のトレーシー曰く、「私も砂糖は止められないわ。家でやめても学校に行ったら、ドーナツの差し入れはあるし、甘いもので溢れているのよ」と。そしてこう続けました。「この間、娘にグルテンを食べさせないでくれっていう、メモを担任によこした親がいたのよ。で「彼女はいつも、学校でパンを食べてますよ」って担任が言ったら、親はビックリしてたらしいわ。自分の娘はグルテン食べると、お腹が痛くなるって思ってたのね」と。彼女はグルテンが体に良くないというのは、まるで都市伝説か陰謀説でもあるかのように笑っていました。

※「砂糖の弊害」で検索し調べてください

参考図書:「いつものパンがあなたを殺す」

それに対し私は知っていることを伝えました。「グルテンは急性的にアレルギーの症状が出るケースばかりではないみたいよ。体内で分解することのできない、小麦の殻の内側にあるタンパク質が、体の中に蓄積されることによって、自己免疫が働いて、様々なアレルギーの症状を引き起こす原因になるんだって。なので既にその兆候を親がその子から感じるのなら、学校でパンは食べさせないで欲しいと、要望する親の言い分は正解だと思うわ」と。そして続けました。「ナサニエルの鼻づまりは、彼の自己免疫が自分の体を守るために、過剰に反応してるのよね。それはもしかしたら蓄積されたグルテンや、砂糖摂取過多が原因かもしれないし、または抗生物質で腸内細菌のバランスが崩れて、免疫が正常に働いていないのかもしれない。どちらにしてもそうした症状は、薬を一回与えて治せるものではなくて、地道に毎日の食事と運動で改善するしかないと思うわよ」と。

小麦は昔から人類が食べてたのだから、なぜ今更、まるで流行のように、多くの人が小麦に含まれるグルテンは食べない方がいいと言っているか?ナンセンスに思う人もいるかもしれません。しかし、調べたらすぐに分かりますが、まずは小麦は昔ながらの小麦ではなく、現代の小麦は、品種改良が重ねられた末のものだそうです。昔の小麦に含まれていたタンパク質のグルテンは、もしかしたら人の体内で分解しやすいものだったかもしれません。でも現代のグルテンは、過敏に反応する体質の人でなくても、分解し難いものだそうです。ですから現状は問題なく食べている人でも、分解されないタンパク質が体内に蓄積された場合、健康に全く影響がないかと言うと、どうもそうではないようです。

※「グルテンの弊害」で検索し調べてください

このように、親が知識を持っているか否かで、子どもの健康を大きく左右することは、他にもたくさんあるでしょう。日本での深刻な問題は、放射能による食品の被害かと思います。しかし科学者のように、細部まで親は勉強しなければいけないかというと、それはやりたくないだけでなく、そんな時間も余裕も知識もありません。なにせ科学者であっても、自分の専門分野ではないことには、知識がなかったりするものです。一人のお母さんが全てを細部まで把握しないと、子どもを守ることはできないと心配しても、そもそもその方向に目を向けて、掌握の限りを尽くそうとするのは、相当ストレスとなってしまうことでしょう。

私は約半年ほど前、今こうして書いていることをお母さんたちに伝えるための、強い動機となる体験をしました。その結果、細部に渡る知識を全て掌握しようと考えなくても、全体像として理解できるイメージを持つことで、(では今なにをしたらいいのか)ということが、おのずと見えてくる考え方をお伝えしたいと思っています。それをシェアさせていただく前に、まずは経緯についてお話させてください。

私はほぼ毎日馬に乗っています。ある日、日が暮れた後、なぜか暗がりの中で目が見えないまま、馬に乗り続けていました。その時、まるで刀で切り落とされたかのように、木の枝にガサガサ、ザクーっと、首の右側を切られてしまいました。医者に行くと、傷は頸動脈ぎりぎりだったため、動脈まで切れていたら、止血できずに死んでいたと言われました。そこで初めて不幸中の幸いだったことを知りました。

一人目の医師からは、傷が悪化し始めていたので抗生物質を処方されました。しかし、悪化する傷を一日に何回も見ているうちに、それが大きなストレスとなったのか、傷の悪化は酷くなるばかり。そして二件目の別の医者に診てもらうことにしました。そこではステロイドを処方されましたが、その塗り薬をつけると良くなるどころか、更にジュクジュクした痛みと痒みが酷くなりました。そうなると寝不足の日が続きました。眠れない夜にベッドの中で、痛みと痒みの体感と伴い、心に彫り刻まれるように、頭の中でエコーするように、土に染み込むように、繰り返し想像していたことがありました。それはアトピーの子どもたちの苦しみでした。

私は喘息持ちでしたので、喘息の怖さや辛さは知っていましたが、アトピーのような痛みと痒みの辛さは、これまで体験したことはありませんでした。(こんな辛い思いを小さい子どもたちが耐えているのか・・)と、自分で体験して分かったことは、それは大人でも耐えられない、もがくような苦しさでした。以前、馬で怪我して、肋骨に何ヶ所もヒビが入ったことがあり、横になることさえできない日々が続いたことがありましたが、今考えると、痛みと痒みが24時間常に伴い、その苦しみから逃れることのできない、アトピーのような状態に比べたら、肋骨のヒビの痛みはまだ我慢しうるものでした。

小さな子どもたちに近年増えている、アトピーや喘息などの自己免疫疾患。私はこの原因と解決の鍵は、もしかしたら腸内細菌にあるのではないかと考え、腸内細菌の研究でパイオニア的存在の、コロラド大学のロブ・ナイト博士の授業を取ることにしました。そこから学べたこと、そしてまたそのトピックについて学び続け、これまでランダムに点在していた点と点が、ジグゾーパズルのピースのように繋がり、徐々に全体像が一つのイメージとして見えてきたことがあります。どのように全体像を考えれば、自然に(では今日、何をしたらいいのか)と、あなたが置かれた環境の中で、子どもの健康と能力のために、最善となることを日々の生活の中で選択できるか?細かい選択までは、それぞれの体質や環境や習慣が違うため、マニュアルのような形で提供することはできませんが、森を俯瞰できる全体像であれば、今私が想像しうる範囲でシェアできることがあります。

まずはヒントとなる画像をご覧ください:

画像の真ん中の少し左側:DNA methylation
Methyl group (an epigenetic factor found in some dietary sources) can tag DNA and activate or repress genes.

DNAのメチル化
メチル基(食事供給源に見られるエピジェネティクス因子)は、DNAと結合し遺伝子を活性化させたり、または抑制することがある

画像の中にでてくるHistoneは、遺伝子の脚本家と言われる役割をしていて、それは食べ物だけでなく、人の思考によっても影響を受けるということが、最近の科学で発見されています。

※「エピジェネティクス」で検索し調べてください。

遺伝子の仕組みは言葉で説明されても、とても複雑で理解しにくいのですが、このようなアニメーションで見ると分かりやすいです:

 

 

続く・・・

 

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